2018年7月14日、ジロロモーニについて頭と舌でたっぷり体験できるイベントが開催されました。
●オーガニックイタリアンを、頭と体でおいしくただく!
東大駒場リサーチキャンパス内のオーガニック・イタリアン・レストラン「アーペ」の人気イベント「オーガニック食材を楽しむ会」では、毎回パスタを始めとしたジロロモーニ・シリーズを使った料理を出していただいているのですが、今回はじめてジロロモーニそのものをテーマにしたイベントの開催となりました。
お二人の講師はいずれも東京大学・大学院総合文化研究科の教授さん。イタリア文学(中世・20世紀)がご専門の村松真理子先生のお話は「食から見えるイタリアの風景とひと」。フィリピンの地域研究と開発経済論がご専門の中西徹先生のお話は「ジーノさんに学んだこと」。ジロロモーニの故郷イゾラ・デル・ピアーノを訪れたことがあり、生前のジーノ・ジロロモーニとも面識があるお二人です。続くお食事はジロロモーニにちなんでマルケ州を意識したレシピです。
(1)「食から見えるイタリアの風景とひと」村松真理子先生
冒頭、車窓から見たマルケ州の風景の写真を見ながら、ジーノ本人が風景は文化を反映していると情熱的に語った思い出話から始まりました。本来のイタリアの風景にはブドウ・小麦・オリーブなど多様な植物が混栽されていて、それは古代にまで遡るとのことでした。
●イタリア料理とは誰のもの?
イタリア料理は誰のものかを考えると、宮廷料理のようなものを思い浮かべがちですが、村松先生は「農民料理こそが重要。イタリアは北と南でそれぞれに特徴があって、南イタリアからはピザやパスタが、北イタリアからはポレンタ(トウモロコシの粉のおかゆのような食べ物)が出てきました。その他、地中海起源のものとしてはパン、ワイン、オイル、チーズなどがあり、ローマ帝国やローマ教会が進出するにつれ、北ヨーロッパからはお肉やビールなどゲルマン的なもの、さらにヨーロッパの外からはサフラン、コショウ、ポテト、トマト、トウモロコシ、コーヒー、砂糖などがはいってきました」と解説。イタリア料理の概要が見えてきました。
詩人・作家のアレッサンドロ・マンゾーニの大河歴史小説『いいなづけ』の中にも貧しい農民の食事としてポレンタを食べるシーンがあるそうです。マンゾーニは、この作品で近代イタリア語を完成させ、言葉の面からイタリア統一に貢献したとされます。
「料理の世界でも同じような役割を果たした人がいます。ペッレグリーノ・アルトゥージの『料理の科学とおいしく食べる方法』はいまも家庭に一冊といわれる人気のレシピ本です。イタリア各地の多様な地方料理を紹介し、イタリア人が「国民の料理」を通じて近代国家のアイデンティティを感じる役割を果たしました」
ちょうど日本の幕末から明治維新と同じ時期に統一運動を展開したイタリアは、それまでばらばらの都市国家群だったため、他のヨーロッパ諸国以上に多様な文化をそれぞれの地域に持っていました。たくさんの藩があった日本とも事情が似ていますね。
●ジーノ・ジロロモーニのやり方
「第二次世界大戦の後、資本も人も文化も料理もすばやく動くようになった結果、急激な変化にさらされて、いろいろなものが守らないと消えていくようになりました。コミュニティも、建物も、牛の種類も、麦の種類も消えてしまいます。そこでジーノさんや、スローフード運動の人たちが始めたのが、食による市民運動でした」
ここで村松先生が指摘しているグローバリゼーションによって、地域の多様なものが失われていく問題は、イタリアに限らず、日本を含めた世界中で起きている問題だということがわかります。さらに先生は、ジーノの挑戦は食べて消費する人が伝統食品や文化を守ろうとするスローフード運動と対照的だと指摘します。
「ジーノさんがマルケ州イゾラ・デル・ピアーノで始めた運動は、地域コミュニティを守るところから始めたのが大事な点です。村が過疎になって中学校がなくなってしまうことに危機感を覚えたジーノさんは、若くして村長になりました。まず村人の就労を立て直さなければと考えて、農業組合をつくりました」
ジーノが農業組合のシンボルとして、すっかり朽ち果てていた修道院「モンテベッロ」を美しく復興させたことを、村松先生が「まるでアッシジの聖フランチェスコのよう」と表現したのが印象的でした。
イゾラ・デル・ピアーノで開催する演劇や音楽のイベントには世界中から人々が集い、あるいはアグリツーリズモを体験しに来るようになりました。そして「ジーノさんは実際に村のコミュニティをつくって、実際に作物をつくって、経営をするという形で取り組んだところが、スローフードの市民運動と違うところ」とまとめていただきました。
(2)「ジーノさんに学んだこと」中西徹先生
フィリピンのスラムの貧困問題がご専門の中西先生が、なぜイタリアのジーノ・ジロロモーニと親交を深めることになったのか、そのきっかけはとあるパスタとの出会いだったそうです。それは1977年ジーノ・ジロロモーニが設立した農業協同組合の名前を冠した「アルチェ・ネロ」というパスタでした※。
※現在の「アルチェネロ」ブランドとは異なります。運営方針の違いからジーノは自らが立ち上げた商品ブランドを手放して、本来の方針を守ることになります。
中西徹先生。
●アメリカ先住民の精神に学ぶ
「パスタの名前を調べたところ、ブラック・エルク(黒いヘラジカ)という有名なアメリカ先住民の名前だとわかり、ますます興味が湧いて製品に書かれた解説を読み、ウェブサイトを見つけ、ジーノの著書『イタリア有機農業の魂は叫ぶ』 を読み、農業協同組合を訪れる決意をしました。ところが2006年に訪れてみると既に商標が変わっていました。地域性を重視したいジーノさんと、共同経営者との間で経営方針が違ってしまい、残念なことに商標を手放さざるを得ませんでした」
と、ロゴの変遷を解説していただきました。同時に、いまでも「アメリカ先住民の人々は資源をとても慎重に利用した。それは、彼らを征服し、資源とエネルギーを際限なく浪費し、不必要に環境を破壊してきた人々の行いとは対照的だ。我々の経済、社会、文化のプロジェクトに、その賢明なるアメリカ先住民の名前を冠する理由はそこにある」と宣言した精神は変わらないことにも触れていただきました。
●「闘う」有機農法①人をつなぐ
モンテベッロ修道院には年間1万人が訪れること、実際に訪れた時にはジーノが自らチェックインの手続きをしてくれたこと、そして1時間だけという約束で始まったインタビューが、いざ話し始めると、ジーノ本人が「なぜ来た? 創健社を知っているか? 福岡正信さんを知っているか?」と矢継ぎ早に質問をし始め、あっと言う間に3時間ほどがたち、さらには食事も一緒に食べることになり、その後も研修中、全日、お世話いただいたとのことです 。
「なぜ有機農法に取り組んだのかを聞いたところ、若者は自らの文化に自信がないので村を出て行ってしまう。そこで彼らが自信を持てる地元の文化を復興する必要があると考え、アメリカ先住民族の伝統にその哲学を見出し、有機農法を選んだそうです。目的はコミュニティの再生で、手段が有機農業の振興というスタンスです」
中西先生によれば、アメリカのある有機農業組合は「目的が有機農業で、そのための手段がコミュニティの形成」だそうで、ちょうど逆です。どちらがいいとか悪いとかいう話ではなく、農村文化の再発見とコミュニティの再生を目的としたことがジロロモーニの特徴と言えるでしょう。
ジーノさん亡き後、2代目の組合長に就任した次男のジョヴァンニ・バチスタさん、農場を一手に引き受ける長男のサムエレさん、アグリツーリズモの拠点「ロカンダ・ジロロノーニ」を運営する長女のマリアさんをはじめ、 組合の中枢のマリアナ・メツゾラーニさんはジーノ学校卒業生、教育者で農民文学者で画家でもあるダニエル・ガロータさんもジーノ学校の第1期生というように「優れた人材が村から育ち、活躍していることは、まさにコミュニティ再生の表れです」と中西先生は指摘します。
●「闘う」有機農法②自然とともに生きる
ジーノ・ジロロモーニが有機農業を選んだ理由として「おいしい、素晴らしい、安全であるといったことはもちろんですが、経済的に採算性があるというのも大事な点でした。ジーノは修道院の一画に設けた農業博物館には、農芸化学の父として知られるリービッヒ男爵の後悔のことばを示しています。リービットは、窒素、リン酸、カリウムを使った化学肥料による農業の考案者でしたが、晩年その危険性に気づき悔やんだと言います」と、慣行農業から有機農業への転換の意味を解説します。
「ジーノ・ジロロモーニ農業協同組合の農場は、肥沃度は有機肥料によってまかない、雑草等に関しては輪作を通して対応し、連作障害が起きないように麦の連作は2年まで、集約農法はしないなど、一種の実験農場として運営しています。土は生きていると考え、地中のバクテリア、菌類、ミミズを活かす農場なのです」と、モンテベッロの有機の丘の魅力を紹介していただきました。
●「闘う」有機農法③社会に向き合う
中西先生がジーノから一番影響を受けたのは、ジーノの社会に向き合う姿勢だそうです。それは「有機農業が、唯一遺伝子組み換え作物に対する防護壁である」という言葉に示されていると言います。生命特許の問題、遺伝子組み換え作物などについて、ジーノはグローバル企業との闘いの姿勢を鮮明にします。そして十分に立ち向かえる強さを身に付けるため、有機農業に最適の規模を考え、近代的な倉庫や、太陽光、風力発電などのエネルギーの導入を進めました。
ここで中西先生はある事例を紹介します。世界を救う技術として鳴り物入りで登場した「ゴールデン・ライス」はいまだ商品化に至っていません。フィリピンでは2013年に実験圃場に乗り込んできた農民・消費者の集団が、栽培されていたゴールデン・ライスを根こそぎ引っこ抜くという事件まで起きてしまいました。ジロロモーニは2005年の著書で似たような状況を想定し「そんな実力行使も時には必要ではないか」と(いささか物騒なことを)書いているそうですが、ジーノの「闘う」姿勢はこんなところにも感じられます。
●農と食の哲学の師・ジーノ
中西先生は、あまりにも有名なジーノ・ジロロモーニが写っている1枚の写真を示し、「長女のマリアさんも言っていましたが、この写真を見るといつも自分の行動を見られている気がします。ジーノさんの凄さは有言実行の実践力です。同時に、人をつなぐという点で人文科学の、自然と共に生きるという点で自然科学の、そして社会と向き合うという点で社会科学と、実に総合的な学者でもあり、実践と科学の両方を兼ね備えた哲学の師だと思って、少しでも彼に近づきたいと思っています」とまとめていただきました。
(3)ORGANIC FEAST MENU
Antipast 前菜
・有機オリーブと抗生物質不使用のハーブ豚のコロッケのオリーブオイルフリット
・マルケ風ズッキーニとうずら豆のオーブン焼き
・発芽させたオーガニックガルバンゾーとレンズ豆、緑豆、雑穀のサラダ、うずら豆のピューレ
・マルケ産トリュフとシャンピニオン、テルエル豚、有機クルミのブルスケッタ
・アワビのアンコーナ風
Primopatti パスタ
・トランペット茸、ジロール茸、ハーブ豚、鶏レバー、ハツのソース、ジロロモーニの有機全粒粉ペンネ
・白いかとムール貝のポルト・レカナーティ風ブロデットソース、ジロロモーニの有機スパゲットーニ
Secondipiatti メイン料理
・熟成させた抗生物質不使用のハーブ豚未来と有機ハーブのポルケッタ
Dolce デザート
・チャンペッローネ
・フィグログ
・平飼い卵と有機牛乳のジェラート
・有機イチゴとバルサミコのソース
・オーガニックコーヒー
・オーガニック・ワインチウチウ