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【50周年記念対談Ⅱ】製造者・笛木正司さん①伝統へのこだわりと新ブランド構想

寛政元(1789)年から12代続く、お醤油作りに対する思いとは。

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50周年を記念して、創健社社長・中村靖が各界のLOVE > FOOD > PEACEを実践しておられる方々にお話をうかがいにいきました。第2弾は、埼玉県は川越で伝統製法を守る笛木醤油の笛木正司(12代目・笛木吉五郎)代表取締役社長。まもなく創業230年を迎えようという大先輩に教わります!

 

●来年創業230年、伝統製法を守る笛木醤油

中村靖(以下、中村):創健社は50周年ですが、笛木醤油さんはもうすぐ230年。全然足元にも及ばない歴史です。今日はいろいろ教えていただくつもりで笛木醤油さんの本社にやって参りました。まずは笛木醤油さんについて自己紹介をお願いします。

 

笛木正司(以下、笛木):教えるだなんて恐れ多いです。笛木醤油の創業は、寛政元年、1789年。大豆、小麦、食塩のみからお醤油を作っており、今でも昔ながらの大きな杉の桶で、二夏発酵熟成をさせるという伝統的な醸造方法を守り続けています。ブランドといいますか、銘柄は「金笛(きんぶえ)」、私で12代目になります。今年(2018年)、12代目吉五郎を襲名します。

親父が11代目吉五郎を襲名して、1年で志半ばで他界してしまったので、その思いを受け継ぎたいというふうに思っています。吉五郎を襲名したいと思ったもう一つの理由は、小さい頃に見た祖父の吉五郎の思い出があります。醤油作りに対してとても真摯で、毎日現場に出て、もろみと対話する様子が印象に残っているんです。社長ながら職人肌が強くて、お醤油作りに対するこだわりを持っていたんですね。その姿勢にならう意味でも吉五郎を継承したいと思っています。

 

中村:先ほど、創業以来ずっと丸大豆と小麦と塩のみで、二夏越して、とおっしゃいましたが、イマドキの醤油はどんな風につくられているのか、違いを知らない人も多いんじゃないかと思いますが。

笛木:私は日本醤油協会の「しょうゆもの知り博士」の資格を持っていて、学校で出前授業をしているんですが、そこではこう説明しています。今、お醤油は6ヶ月でできると言われています。笛木醤油のように木桶で発酵熟成させている醤油・味噌は全体量の1%以下と言われて、非常に少ないです。木桶のいちばんの特徴は、麹菌や乳酸菌や酵母が快適に暮らせて、菌が活発に活動できることです。ゆっくり自然な状態で発酵熟成させているので、一般的なお醤油と比べて、塩カドが取れてうまみ成分が全部移行して、まろやかでコクのあるお醤油になります。

 

中村:創健社が笛木醤油さんと巡り会ったのは創業当初で、埼玉のこの地区にいい醤油があるということで、取引させていただいてきました。おかげで私も笛木醤油以外口に合わなくて、「他の醤油はどうもぴんとこないな」と使わせていただいています。

 

●オール埼玉にこだわった新ブランド構想

中村:埼玉県は、戦前小麦の生産量が多く、もともと小麦文化だそうですね。古い家では、お客さんが来ると、自分の所でうどんを打って振る舞ったなんて話も聞きました。お醤油屋さんは今も多いんでしょうか?

 

笛木:残念ながら10社まで減ってしまいました。40年くらい前は60社以上あったんですけれど。大豆、小麦から作っているところも限られていると思います。小麦の出荷量や生産量は、今も埼玉県は全国6番目と上位です。近くの熊谷や北本など、小麦が非常に穫れるので、笛木醤油も小麦は100%埼玉県産を使用している状況です。

 

中村:笛木醤油の原材料は、大豆をそのまま使う「丸大豆」ですが、では丸大豆ではない醤油は何を使っているんでしょうか?

 

笛木:多いのは油分を先に抜く「脱脂加工大豆」を使っています。それ以外に、自社では発酵熟成はせず、よそからお醤油を買って来て、加工製造するというやり方が多くなってしまっているようです。

中村:笛木醤油さんのように本当の意味での醤油製造をしているのは貴重です。どうりで伝統的な製法の醤油を味わう機会が少なくなるわけですね。大豆は、埼玉だけで調達するのは難しそうだけれど、やはり地元にもこだわりますか?

 

笛木:埼玉には文化として在来の大豆があります。ここ川島にも川島在来がありますし、近くの小川町には青山在来大豆があります。今、埼玉では「里のほほえみ」という品種に力を入れておりまして、手前味噌な話になってしまうんですけれど、弊社は今、JAいるまのさんと契約栽培をして、醤油の仕込みに川越産をはじめJAいるまのの「里のほほえみ」を仕入れています。

 

中村:埼玉産の大豆は、主力商品の金笛の醤油とは別な、特別な使い方を考えているんですか?

 

笛木:このところ毎年新しい桶を作っていて、来年も新しい桶を作る予定です。今までは桶作りの職人さんが徳島の方なので徳島県産の木材を使ってきましたが、来年はできれば埼玉県産の木材で桶を作ろうと考えています。その新桶は創業230周年記念の時に仕込みができる、記念すべきお醤油になるので、桶も大豆と小麦も全てオール埼玉産の、地元に特化した限定品にしたいと考えています。

ちょっと尖った、新進気鋭のお醤油作りということで、「金笛」の中に「吉五郎」ブランドを立ち上げようと考えていて、パッケージデザインやロゴなども検討中です。鮮度を保つ意味で今までより少量にして、新鮮なうちに使い切っていただいてお醤油の味を伝えることが出来るような形をめざしています。

 

中村:「吉五郎」の名を冠した新しいブランドですか。どんな味の醤油になるのか楽しみです。創健社としても応援したいですね。(この項続く)

笛木醤油

創業は寛政元(1789)年。厳選された丸大豆、小麦、天日塩のみを原料とし、大きな杉の桶で1年から2年かけてゆっくりと発酵熟成する伝統的な醸造方法を守り続けています。中でも「金笛」の名で知られる濃口醤油「金笛醤油」「金笛丸大豆醤油」は、二夏を通し、時間と共に塩のかどがとれて丸くなり、醤油本来の旨味が引き立っています。