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【50周年記念対談Ⅱ】製造者・笛木正司さん②変わらないために変わり続ける

子どもたちにお醤油をはじめ、和食や発酵食文化、だしの文化を少しでも伝えていきたい

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50周年を記念して、創健社社長・中村靖が各界のLOVE > FOOD > PEACEを実践しておられる方々にお話をうかがいにいきました。笛木醤油の12代目・笛木吉五郎さんとの対談は、続々と新しいチャレンジを活発に展開する老舗の活動をじっくりうかがいます。

 

●50年先、100年先を見据えたプロジェクトを

中村:創健社はようやく50周年ですが、これを機に守るべき伝統と、新しいことへのチャレンジについて社内でも考えています。230年近い歴史を持つ笛木醤油さんも、伝統を守るだけでなくいろいろ新しい取り組みをされていますね。

 

笛木:笛木醤油として、今「変わらない」ために「変わる」必要があると思っています。昔ながらの製法は変わらないんですが、例えば原材料の見える化に取り組んでいます。今後、川越の畑でとれた大豆を使ったお醤油と、小川町の有機農家さんが作った大豆で作ったお醤油、というような形です。フランスワインの、畑によって微妙に違う味を楽しむテロロワールの発想を参考にしたいと考えています。笛木醤油が生き残って行くために特徴を出すような取り組みをしていきたいなと思っています。

 

中村:いま「100年」というキーワードで展開されていますよね?

 

笛木:2016年から「未来へ繋ぐ100年プロジェクト」というのを始めました。木の桶が持つ寿命が100年と言われていまして、会社としても100年先を見据えた取り組みを意識しなきゃいけないと思っています。「作り手として」「地域人として」「親として」という3つの軸で取り組んでいます。

「作り手として」については、今後国でも食品衛生基準HACCP(ハセップ)が義務化されるので、2017年12月に業界ではいち早くHACCPに対応した国内認証の、 JFSB規格というのを取得しました。先日問い合わせたところ、醤油メーカーでは初だそうです。地球環境に優しくて、安心安全な醤油作りということで、今まで以上により高い意識を持って製造しています。

また木桶仕込みの醤油を未来につなげるために桶作りの技術を継承することを目的としたプロジェクトとして、2016年から50年ぶりに新しい桶づくりを始めています。2017年には記念すべき40本目を作りましたが、それを非常に楽しみにしていただいているお客様もいらっしゃいます。

 

中村:「地域人として」と「親として」というのは、醤油メーカーさんのことばとしてユニークですが、どういう中身なんですか?

 

笛木:「地域人として」については、地域社会に貢献すると言う意味で、222年目から毎年、創業祭というイベントを開いています。郷土の味を形作っていると自負しているので、地元の人に出来る限り使ってもらって、笛木醤油を身近に感じてもらいたいという思いで創業祭を開催しています。恥ずかしながら、地元の人でも笛木醤油という会社自体を知らない人がいるなど、まだまだ知名度が低いですし。「親として」というのは、子どもたちにお醤油をはじめ、和食や発酵食文化、だしの文化を少しでも伝えていきたいなというふうに思っています。

●子どもたちに和の食文化を伝える工夫

中村:学校で出前授業をやっているという話でしたが、それは具体的にはどういうことをしているんですか?

 

笛木:子どもたちはそもそもお醤油の原料が大豆と小麦だということ自体知らないですし、発酵というプロセスも知りません。そこで実験っぽく見せると、子どもの反応はすごくいいんです。例えば、フライパンに醤油を刷毛で塗って熱すると、香りがします。それで醤油って何種類の香りから出来ていますかって三択でやると、だいたいみんな5種類とか10種類とか答えます。正解は300種類以上なんですが、「バニラやチョコレートの香りも入っている。りんごなど果物の香りも含まれている」と伝えると結構わっと驚いたりします。

 

中村:それは大人でも興味を惹かれるでしょうね。子ども向けといえば、笛木醤油さんが去年始めた、大豆の種まきから醤油づくりまでを体験できるイベントにも注目しています。

 

笛木:小川町の有機農家さんと青山在来大豆を使って、種まきから収穫、そして醤油の仕込みまでを一連の体験型のイベントにして、お醤油作りを進めています。もともとの発想は、大豆が青森や富山からトラックで運ばれて来るのを見て「誰が作っているんだろう」と素朴な疑問がわいたことです。蔵元として、農家さんがどれだけ苦労して大豆を作っているのか知らなきゃいけないし、将来の子どもたちにも伝えなきゃと考えました。

2017年の7月の暑い中、小川町で大豆の種まきを手撒きでやって、10月には枝豆の状態で収穫して味わって、11月には醤油に使うための大豆を収穫、2月には醤油仕込みを見学していただきました。こうして一連の流れとしてはじめて伝えることができると思っています。

 

中村:参加者の反響は?

笛木:すごく楽しみにして毎回続けて参加していただくご家庭が多かったですね。食育にもつながってるのではないかと期待します。かつては、お金をとって農業体験を消費するなんてまさかという時代でしたが、今は、そういうところも含めて、モノの消費からコトの消費に変わってきているのじゃないかなと実感しています。

家訓のように伝えられていることばに「人との絆を大切にしなさい。地域との絆を大切にしなさい」というものがあって、醤油を作るためには、原料の大豆を作る農家さんがいて、仕込みをする桶を作ってくれる桶屋さんがいて、そういう絆の中で育まれているものなのでその絆を大切にこれからも愚直にやっていきたいなと思っています。

中村:うちは笛木さんみたいないい考え方のいい商品を少しでも世の中の人に多く知ってもらいたい、広めていきたいと考えています。醤油以外にもいろいろな基礎調味料を扱っていますが、例えば笛木さんの醤油を利用したそばつゆを売らせていただくなど、皆さんの原材料を利用させていただいた創健社ブランドの加工食品も出しています。

一方、時間がなくてあたふたしているお母さんには、短時間でできて、しかもきちっとしたものをお子さんに食べさせていただきたいという思いで、創健社ブランドで300品以上、笛木さんの金笛なども入れると400品ぐらい扱っています。そういう形で、我々も日本の食文化を少しでも残すことに協力していきたいですね。(この項続く)

笛木醤油

創業は寛政元(1789)年。厳選された丸大豆、小麦、天日塩のみを原料とし、大きな杉の桶で1年から2年かけてゆっくりと発酵熟成する伝統的な醸造方法を守り続けています。中でも「金笛」の名で知られる濃口醤油「金笛醤油」「金笛丸大豆醤油」は、二夏を通し、時間と共に塩のかどがとれて丸くなり、醤油本来の旨味が引き立っています。